面接の“型”を学ぶだけではない。
自社に合った採用のあり方から考える面接官トレーニング
with 稲畑産業株式会社様
(左から弊社樋口、弊社松澤、高橋様、本多様)
新卒採用では「人柄」や「会社らしさ」を大切にしたい。一方で、その“見る目”が面接官個人の経験の中だけにあると、担当者が変わるたびに評価の軸も変わりかねません。
稲畑産業株式会社様(以下、稲畑産業様)が抱えていたのも、まさにその悩みでした。長く採用に関わってきた面接官には確かな感覚がある。中堅、若手の面接官にもそれぞれ判断の目線がある。しかし、何を見て、なぜそう判断しているのかは十分に共有されていない。そこで、長年培われてきた「稲畑っぽさ」を否定するのではなく、人事メンバーそれぞれが持つ“人を見る視点”を言葉にし、共有するところから取り組みをスタート。その上で、質問・評価・判断の基本を学び、実際の選考で運用しました。
本インタビューでは、取り組みの背景、議論から得た気づき、面接で生まれた変化、そして今後の課題について伺いました。
プロフィール
高橋 直人(たかはし なおと)様
人事室 グローバル人事部/人財開発部 新卒採用課長
2003年新卒入社。約19年間、営業部門で勤務し、フィリピン・上海・香港で海外駐在を経験。2022年に社内公募で人事へ異動し、国内外の人財開発を担当。現在は新卒採用にも携わる。
本多 貴裕(ほんだ たかひろ)様
人事室 人財開発部 新卒採用課
2014年新卒入社。営業部門で約10年勤務し、国内外のビジネスを経験。2024年に人事へ異動後はキャリア採用や研修業務を担当し、現在は新卒採用の実務をリードする。
インタビュアー
松澤 勝充
株式会社Every 代表取締役CEO
神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として営業・マーケティング・採用の3部門を管轄。2018年8月渡米留学。帰国後2020年4月1日に株式会社Everyを設立。
採用や人材育成、評価制度など、企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラム(Every HR Academy)で、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」を展開している。
新卒採用は、
会社の文化をつないでいくための重要な施策
松澤
本日はお忙しい中お時間を頂き有難うございます。
新卒採用は企業の採用活動の中でも重要な取り組みであると思いますが、稲畑産業様では、新卒採用をどのように位置づけていますか。
高橋様
まず、非常に重要な企業活動だと思っています。私自身は、営業本部に20年弱所属し、3か国に駐在と様々な経験を積ませて頂いたのですが、その経験を通じてヒトの重要性をより強く感じるようになりました。その過程で、公募制を利用して人事室に異動し、グローバル人事と人財開発を担当しています。
新卒採用というと会社からすると「伝統行事」と見られがちですが、実際には、どんな人を採用するかについて人事が意図を持って向き合わないと、現場で勝負できなくなっていくと思っています。毎年が勝負だという感覚で、少しでも良い方を採用したいと考えています。
本多様
実は私も営業に10年ほど所属しまして、元々教育免許も持っており人材育成など人に関わる領域に興味を持っていました。その中で、縁あって人事のポジションがあり異動してきたという背景があります。キャリア採用も経験したことで、新卒採用の意味や意義をより強く感じるようになりました。新卒社員は、良い意味でまだ何色にも染まっていない状態で入ってきます。その人たちが会社に馴染み、文化を受け継いでいく。稲畑産業の文化を継承していくうえでも、新卒採用は欠かせないと感じています。
松澤
誰を採用するか、という点においては、大切されてきた考え方などはありますでしょうか。
高橋様
やはり「人」を重視している会社だと思います。能力や頭の良さももちろん大切ですが、最終的には人柄や人間性をかなり重視して採用してきました。自分自身も、面接をする中でそうなっていると思います。
ベテランの「見る目」を、
個人の中だけに残さない
松澤
今回は面接官のトレーニングを実施されました。この取り組み以前、新卒採用や面接についてどのような課題を感じていましたか。
本多様
当社では、長く採用に関わってきたベテランから、中堅・若手まで幅広いメンバーが面接官をします。ただ、私はその方々が実際にどんな面接をしているのか、何をチェックしているのかを見たことがありませんでした。ある意味、個人に任されていた部分が大きかったんです。
面接官が変わると、面接のやり方も採る人も大きく変わってしまうかもしれない。それは組織としてどうなのだろう、という問題意識がありました。長年採用をやってきた方が、どんな目線で応募者を見ているのか。そこを蓄積して共有できれば、もっと良い採用につながるのではないかと思ったのがスタートでした。
高橋様
私も本多も営業出身なので、「この人は自分たちの後輩にいそうだな」「この人は面白そうだな」という感覚はあります。ただ、それを言葉にしようとすると、うまく説明できない。それを言語化して共有できたらいい、というのは一つのテーマでした。
松澤
実際に、面接官によって評価が分かれることもありましたか。
高橋様
あります。分かりやすく言えば、元気で人当たりの良い応募者を高く評価する人もいれば、論理的に説明できる頭の良さを重視する人もいる。両方を持っていれば高評価になりますが、どちらかに特徴がある場合、面接官によって評価が変わる可能性はありました。
本多様
トレーニングを通じて、改めてバイアスの存在も意識しました。自分なら厳しく見てしまうタイプの応募者が、別の人から見たらすごく良い応募者かもしれない。個人の好みだけで判断しないためにも、まず自分たちが何を見ているのかを知る必要があると思いました。
「これをやりましょう」ではなく、
まず自社の事情を聞いてくれた
松澤
構造化面接や面接官トレーニングにはさまざまな選択肢があります。その中でEveryに相談いただいた理由は何だったのでしょうか。
本多様
きっかけは「構造化面接」というキーワードでした。社内で「構造化面接をやってみたらどうか」という話があり、調べたのですが、実際にトレーニングまで提供している会社はそれほど多くありませんでした。その中でEveryさんを見つけて、問い合わせをしました。
高橋様
最初の説明のときに印象的だったのは、Everyさんが「これをやりましょう」「絶対このトレーニングを使ってください」というスタンスではなかったことです。こちらの状況を聞いたうえで、「やるとしたらこういう選択肢があります」と話していただいた。無理に売り込まれている感じがなく、こちらの事情を真剣に聞いてもらえている印象がありました。
松澤
面接を担当する現場の方までには広げずに、まず人事部の皆さんを対象に実施しました。そこにはどのような意図がありましたか。
本多様
当社の選考では最初に人事面接があり、その後に営業面接、最終面接へ進みます。人事面接では、まず人事として一定の見極めを行い、その後の営業面接では社風との相性や各部門が求める部分を見てもらいたいという考えがありました。その意味でも、まずは人事から始めるのが良いと思いました。
「正解」を決めるのではなく、
みんなが持つ“人を見る視点”を出し合う
面接官トレーニングは終日1日程で実践することもありますが、今回稲畑産業様では、2日程に分け、
「求める人物像のディスカッション」+「面接官トレーニング」をそれぞれ別日程で実施いたしました。
松澤
今回は、いきなり面接のテクニックから入るのではなく、まず人事の皆さんでDay1として「新卒採用における「稲畑産業のビジョン達成に向けて必要な人材像」を人事チームとして“共通言語”で説明できる状態をつくる」という事をゴールに議論しました。テクニック中心のトレーニングをご希望される企業様もいる中で、これも高橋様、本多様の想いがあってのことだと思います。実際にやってみて、いかがでしたか。
本多様
とても良かったと思います。一番感じたのは、「普段、こういう話をしていなかった」ということです。長く採用に関わってきた方や人事室長が、こういう思いで採用をしていたのか、こういうところを見ていたのか、と初めて知ることもたくさんありました。
高橋様
例えば「積極性」という同じ言葉でも、人によって捉え方や評価するポイントが違う。一方で、それぞれが「こういうところが大事だよね」と出し合っていくと、最後は「これって言っていることは同じだよね」と収束していった。最初から答えを決めるのではなく、一度みんなの考えを出してみたことが面白かったですね。
本多様
私は思った以上にいろいろな意見が出たことに驚きました。それでもまとめると、ある程度形になる。「次にやるべきことが見える」という感覚があって、あのディスカッションは本当にやって良かったと思います。
松澤
稲畑産業様では、総合職採用をされているかと思います。職種別採用を選択されている企業様であれば人物像のKSAO(※1)分解もある程度しやすくなりますが、総合職採用ではそれが難しくなると思います。良さもある一方で難しさも生じているのではないでしょうか。
高橋様
おっしゃる通りですね。当社は1年目に管理部門、2年目に営業部門を経験し、その後に本配属となるローテーションがあります。営業部門の中でもセグメントごとに色が違うので、良い応募者がいたときに「どこでも活躍できる人なのか」「ある領域で特に強みを発揮する人なのか」は常に悩みます。オールラウンダーだけを採ればいいわけでもありません。だからこそ、共通するベースをどこに置くのか、今回の取組みで議論できたことは良い機会でした。
本多様
そうですね。高橋が申しあげたとおりですが、私個人では、その人が本当に本心で話しているのかはかなり意識します。「配属先はどこでも大丈夫です」と言っていても、実際はその覚悟の程度は個人によって異なります。上辺だけで話していて、入社してから「思っていたのと違った」となるとミスマッチにつながるので、そこは深掘りして聞くようにしています。
松澤
確かに限られた時間の中でも、応募者の方の本音をお互いが正直に話し合う、そのような雰囲気づくりは非常に重要ですね。そういった点では、今回の2日程とも、人事部の皆様、応募者の方と境遇が近しい若手社員様から管理職の方々まで、所属も経験も異なる人事メンバーが参加されていました。この参加者の選抜に関しては、何か特定の意図があったのでしょうか?
本多様
当社は、「人事室全体で採用活動をする文化」が昔からあるんです。人財開発部、人事厚生部、グローバル人事部など、所属を越えた多様なメンバーが新卒面接に関わってくれます。さらに、若手社員は入社後早々に会社説明などのプレゼンテーションなども担当しており、今回のディスカッションやトレーニングにおいても、採用担当や管理職のみで閉じるより、人事室全体で目線を合わせた方がいいと思いました。若手社員にとっては、経験のある人が何を見ているのかを知る良い機会になったと思います。
※1…KSAO(Knowledge, Skills, Abilities, Other characteristics):職務で成果を上げるために必要な人材要件を、「知識・スキル・能力・その他の特性」の4つの観点から整理するフレームワーク
若手から管理職まで。
ロールプレイで初めて見えた
「他の人の面接」
松澤
ありがとうございます。Day2の面接官トレーニングでは、「面接の流れ」、「マナー」、「質問の仕方」、「評価の仕方」、など多岐にわたるセッションを開催しました。特に印象に残ったことはありましたか。
本多様
ロールプレイは特に印象に残っています。ずっと採用を経験してきた課長が目の前で面接をしてくれたのですが、質問の鋭さや見方を、ある意味初めて体感しました。他の人ともロールプレイをする中で、人それぞれの良さや特徴がすごく出ることを改めて実感できたのは、良い経験でした。
また、若手にとっては、もっと基礎的なところも大きな意義があったと思います。聞いてはいけない質問や面接の進め方、アイスブレイクからどう入るのかなど、型を知ることで「やりやすかった」という声がありました。こうした学びは、面接だけでなく、採用イベントで応募者と接する際にもつながると思います。
“面接中の迷い”が軽減された。
深掘りすることで候補者の違いも見えるように
松澤
本年度の新卒採用は概ね終了されたとお伺いしました。トレーニング前後で変化を感じたことはありますか。
本多様
今年は採用全体もうまくいった感覚があります。内定を出した応募者も辞退が少なく、営業面接の担当者からも「去年より応募者の質が良くなった」という声がありました。もちろん、すべてがトレーニングの効果だとは言えませんが、人事で見る目線や見極め方をそろえたことも、一つの要因だったのではないかと感じています。
松澤
辞退率や応募者の質があがったのは、御社の採用PR戦略や説明会なども含め登壇された方々の努力の賜物だと思いますが、面接官の方の振る舞いも一つの要素なっているかもしれません。そういった意味では皆様の日々の心がけが少し変わったのが素晴らしいことだと思います。
本多様
加えて、「面接中の迷いが軽減された」と強く実感しています。以前は応募者一人ひとりに合わせて、その場で質問を考え、臨機応変に進めていたので、毎回これでいいのかな?と悩み、かなり疲労感があったのです。
今回からは、トレーニングで学んだ基本の流れを参考に、標準化できる部分はある程度統一しつつ、深堀りの部分を応募者に合わせてカスタマイズしていきました。このプロセスにすることによって疲労感が大きく軽減されました。
松澤
まさに構造的に面接を組み立てられていたという事ですね。高橋さんはいかがでしょうか。
高橋様
私自身も多くの面接を経験する中で、本質的に応募者の方の個性を聞き出せているか、という点には問題意識がありました。トレーニング中のレクチャーとロールプレイングを通じて、深堀に対する考え方が大きく変わったと思います。
同じような経験を話していても、「何をやったのか」だけではなく、「なぜそうしたのか」「どういう思いだったのか」をもっと掘り下げていい、むしろ掘り下げるべきだと学び実践してみたところ、これまで以上に応募者を深く理解できるようになったと思います。
松澤
第一印象やエントリーシートから想像していた人物像と、深掘りした後で見え方が変わった応募者もいましたか。
高橋様
いました。良い意味でも悪い意味でも、変わりますね。
本多様
深く聞いていくと、本人の内側から出てくる言葉が見えてきます。「これは本当に本人が言っているんだな」と感じたり、「こういう経験があるなら、この人は当社に合いそうだ」と思えたり、逆に違和感が見えたりする。判断のヒントが出てきやすくなったと思います。
評価シートは“完成品”ではない。
使って初めて見えた、次の改善点
Day1「求める人物像のディスカッション」の内容をEvery社にて集約し、
稲畑産業様にて構造化面接で必要とされる評価項目・基準・シートの改定にも取り組まれました。
松澤
今回、評価基準を踏まえて評価シートも変更されたと伺いました。実際に変更されてみていかがでしたか。
本多様
評価シートを変えたことで、「ここは見なければいけない」という意識が生まれたのはとても良かったと思います。実際に使ったからこそ、どこを改善すべきかも見えてきました。
今回は点数を参考として付けましたが、項目によっては「全部を見るのは難しい」「どう点数を付ければいいのか迷う」という声もありました。1や5は付けづらく、どうしても中間の評価に寄りやすい。ここはブラッシュアップが必要だと感じています。
松澤
おっしゃる通りですね。中央化傾向も含め、この点は誰しもが迷い悩む部分だと思います。次年度に向けて、どのようなことを改善していきたいと考えていますか。
本多様
評価の付け方や運用方法は、まだまだ改善の余地があります。また、深掘りは一度トレーニングを受けただけですぐ身につくものではなく、習熟度や経験も必要だと感じました。人事の質として、面接のレベルをさらに上げていきたいです。
高橋様
もう一つ大切なのは、自分たちが採用時にどう評価した人が、入社後に実際どう活躍しているのかを振り返ることだと思います。「この観点で採用したけれど、本当に合っていたのか」を追っていく。それを続けていくことで、評価基準もさらに当社にマッチしたものになっていくと思います。
松澤
弊社としても稲畑産業様が納得のいく採用活動ができるよう、微力ながらサポートさせて頂きたいと思います。本日はありがとうございました。
Client
稲畑産業株式会社
高橋 直人 様
本多 貴裕 様
Consultant
株式会社Every
松澤 勝充
樋口 咲野
面接の「見極める力」と「惹きつける力」を、
組織の共通スキルに。
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