(左から弊社松澤、小寺様、下村様、菅野様)
日本を代表する企業として成長を続けてきた三菱商事株式会社。その背景には創業以来の社是である「三綱領」に加え、「性別・年齢・国籍に関わらず能力の高い社員が活躍し、評価されるフェアな環境を創る」という人事ポリシーがありました。
ビジネスモデルの変化に伴い様々な人事戦略を実行されている中、今回は、三菱商事様とEveryの共同プロジェクトである人事部組織開発プログラム「人事塾 with Every」について、下村様、小寺様、菅野様にその背景や効果を伺いました。
「Withコロナ」の環境下で、いま、人事はどのような問題意識で何に取り組んでいるのか、是非ご覧ください。
※プロフィールは取材当時のものです。
プロフィール
下村 大介(しもむら だいすけ)様
三菱商事株式会社 人事部長代行
1995年三菱商事入社。新卒採用等を経験後、営業グループへ異動。 ベンチャー投資、新エネルギー分野への新規参入、欧州における M&A案件等を手がける。その後、採用チームリーダー、秘書室長、 経営企画部を経て、2020年7月より現職。
小寺 真由美(こでら まゆみ)様
三菱商事株式会社 人事部 人材開発チーム
2004年三菱商事入社。法務部で契約実務や法律相談等の営業支援業務を担当した後、米国ロースクール及び米国弁護士事務所に研修派遣。総務部、シンガポール支店駐在を経て、2019年4月より人事部。人事企画、人材開発に携わる。
菅野 裕也 (かんの ゆうや) 様
三菱商事株式会社 人事部 人材開発チーム
2013年三菱商事入社。総務部にて株主総会事務局・取締役会事務局業務や、学校法人への出向を経験。米国現地法人での海外研修を経て、2017年11月より人事部に異動、人材開発に携わる。
インタビュアー
松澤 勝充(まつざわ まさみつ)
株式会社Every 代表取締役CEO
神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として営業・マーケティング・採用の3部門を管轄。2018年8月渡米留学。帰国後2020年4月1日に株式会社Everyを設立。
採用や人材育成、評価制度など、企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラム(HRBP養成講座)で、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」を展開している。
性別・年齢・国籍に関わらず能力の高い社員が活躍し、
評価されるフェアな環境を創る
– 今、「人」に対して感じている事 –
(松澤)
お忙しい中本日は有り難うございます。まず初めに、改めて今三菱商事の人事部として目指している事、その中での大事にしている考え方、人事ポリシーを教えて頂けますでしょうか。
(下村様)
私たち人事部が大事にしている事は大きく3つあります。まずは「社員の健康と安全」です。そして「性別・年齢・国籍に関わらず、能力の高い社員が活躍できるフェアな環境を創る事」です。この2つは三菱商事が今も昔も変わらず大事にしている考え方です。
それに加えて、「社員の成長と会社の発展が相互に結びつくポジティブスパイラルづくり」を重視しています。この戦略は中期経営計画にも反映されており人事部としてはハード面とソフト面の両面から、各種施策を実行しています。
(松澤)
人事制度を変更されたのも、そのようなビジョンに紐づいているのでしょうか。
(下村様)
そうですね。そのようなビジョンに基づいて、「事業戦略の変化」を強く意識して人事制度を見直しました。具体的にはこれまでの「トレーディング」中心のビジネスモデルから、「事業経営」に軸足が移り、投資先の経営者、パートナー、社員と伴走しながら、会社の価値を総合的に高めていく事が重要になってきましたので、「経営人材」を継続的に輩出できるような人事制度を目指しています。
(松澤)
今人事部として、うまくいっていると感じている事は何でしょうか
(下村様)
現在の人事制度のコンセプトそのものは、私たちをとりまく事業環境に適切に対応したものになっていると思っています。多少時間はかかるかもしれませんが、人事ポリシーを粘り強く発信する事が重要なのだろうと思っています。例えば、トレーディングでは「経験」が成果に結びつくことが多く、結果的に年功序列に近い風土が出来上がることが多かったと思いますが、事業経営という新しい視点で人材の評価をするようになったので、結果として若手の抜擢も進みました。実際に30代でも会社の経営に関わることのできる社員、または社長の右腕となる人材を輩出し始めていることは、一つの成果だと思います。
(松澤)
元々、年功序列色の強い制度を変えようという狙いもあったのでしょうか?
(下村様)
元々三菱商事には、「性別・年齢・国籍に関わらず、能力の高い社員が活躍し、評価されるフェアな環境を創る事」というビジョンがありましたが、事業環境の変化に合わせた制度を導入したことで、それがより一層進展しているという感覚です。
年功序列色が薄まるということは、ある意味では若手にとって厳しい競争にさらされるということでもあります。経験がものを言う部分はこれからも一定程度は残ると思いますので、全員が今まで以上に実力を高める努力が求められるといえます。そのような切磋琢磨する環境を作りたいという思いが根底にあります。
(松澤)
なるほど。とても理にかなった考え方ですね。一方で、課題や危機感を感じている事は何でしょうか?
(下村様)
私たちが目指している事は、会社の企業文化や風土にも大きく関わるもので、制度を変えても、すぐには変化が表れるとは限りません。人事ポリシーの浸透には時間がかかるという事を念頭におきながら、辛抱強くやっていくしかないな、と感じています。
だからこそ、自分たちの目指す世界を信じ、粘り強くその意義を説くような、エバンジェリストや伝道師が必要だと思います。人事部が制度を作り、あとは現場の人に「宜しくお願いします」というだけでは、経営に貢献する人事戦略を実行する事はできないからです。
だからこそ、人事部の能力開発が重要なのです。HRBP(Human Resource Business Partner)のような、「現場と同じ目線で、問題を解決していく体制。事業成長に貢献できる人事の布陣」が必要だと強く感じており、これが今回の部内勉強会「人事塾」の発端となりました。
「目線の高さ」・「理論と実践のバランス感」
「参加型」でEveryを選びました。
– 「人事塾with Every」実施の背景 –
人事塾 with Every 全体像
(松澤)
では、お話を少し人事塾にフォーカスして伺えればと思いますが、いつから人事塾というものを実施されているのでしょうか?
(下村様)
「人事塾」自体が始まったのは2017年です。最初は、部内勉強会として人事部員が講師となり実施していました。夫々が担当領域における課題や打ち手などの具体的な事例をプレゼンテーションし、参加者がレポートを書くという進め方でしたね。
そこから、外部講師の方をお招きして他社制度との違いをレクチャーして頂き、自社の課題感をレポートするという取組みなどもしながら、今回のEveryさんとのコラボレーション人事塾に発展していきました。
(松澤)
ありがとうございます。ちなみに、Everyとの出会いのきっかけは何だったんでしょうか?
(下村様)
もともと松澤さんが留学される前、前職にいらっしゃった時からよく知っていました。その活躍を知っていた中で、帰国後に起業するとご挨拶を頂き、留学時代のお話やこれから何をしようとしているのかを伺い、「その視点が欲しい、何か一緒にできる機会がないか」と考えていました。
(松澤)
課題感に対して適切なソリューションを提供できそうな会社様も他にもあったと思います。なぜEveryを選んで頂けたのでしょうか?
(下村様)
最も大事な理由は、「目線が合う」という事でしょうか。松澤さん自身が「人事から会社を活性化させる」、「人事がリーダーシップを発揮すれば会社ももっと成長し、社員もやりがいを持って働く環境が創れる」という事を仰っていて、その点は非常に共感していて、一緒にやりたいなと思ったのがきっかけです。
(小寺様)
私は、ご提案を頂いた時のことが印象に残っています。弊社としての課題感を松澤さんに伝えて具体的なご提案をもらった際に、レクチャー中心で1~100まで教えてレポート、という形式ではなく、「参加型」であるという事。受講者に考え発信する機会を多く設け、最終的には自走出来る状態を目指す、というゴールイメージに共感しました。
(下村様)
その通りですね。自分でもっと考える、自分の中で軸・背骨を作っていくと言う機会にして欲しいと思っていました。それぞれの考えをインタラクティブに共有したり、ディスカッションすることに重きを置いてくださっていたので、私たちがやりたいと思っている事にすごくフィットしたんだと思います。
(菅野様)
私も企画者の立場でお話を聞いた時に、アカデミックなモデルはとても効果的に使えると感じていました。人事部はチームが分かれており、どうしても夫々の領域にフォーカスするがあまり視野が狭くなりがちですが、1つのセオリーを軸にしながら人事機能を横断的にとらえる考え方、例えば評価と育成を紐づけるといったような、「点と点を結び付けながら考えられる視点」は人事のプロフェッショナルとして重要だと感じ、この内容を軸に学んでみたいと思ったのが大きかったですね。
※インタビューはコロナ対策を配慮した形でマスク着用のもと、行われました。
理論と実践の行き来で、
「俯瞰的な視点」が身についた。
– 「人事塾withEvery」プログラムの狙いと効果 –
(松澤)
ありがとうございます。とても嬉しいです。では、具体的な中身についてもご意見をお伺いできればと思いますが、今回はビジネススクールで学ぶアカデミックな理論と、現場の人事の方とのケーススタディの双方を4日間、3ヶ月間に分けて実践しました。このプログラム全体に関して、まずどんなことを感じて頂けましたでしょうか?
(菅野様)
私はやはり、Dynamic HRMモデルが印象に残っています。いろんなバックグラウンドの方が人事部にいる中で、1つ共通のモデルを持つことによって、目線を合わせることができましたし、自分自身の日々の仕事が他の人事機能とどう繋がり、どのように会社に対して貢献できるのか、その視点を強く持つことが出来るようになりました。
(下村様)
理論と現実での実践の往還を意図的に組み込んで良かったと感じています。現場で起きていることだけに集中すると、その場に合わせた対症療法で終わってしまう。その場で理解した気にはなるが、本当に他でも使える、応用できる知識や知恵なのか。そうではないと思います。
一方で、理論だけ教わったとしても、やはり「わかった気になるだけ」で実践に繋がりません。
松澤さんには、初日から最終日まで伴走いただき、その全体構成をオーガナイザーとして支えてもらえて助かりました。事業の現場の人事担当者の実体験を外部の視点から解説して頂く事によって「Dynamic HRMモデルでいうとこの部分に問題がある、この点と点の間にある線が大事」と俯瞰的に問題を捉えることが出来ていたと思います。この理論と実践を行ったり来たりする、という人事塾の狙いが果たせたと思っています。
(小寺様)
下村の意見に同感です。三菱商事のベテラン人事担当者が解説してくれたケーススタディとそのソリューションは一見「正解」のように見えてしまいます。しかし、本当にそれが唯一の解決手段なのか?というとそうではない。
「人事制度を変えた」とか「研修をした」と説明すると、その手段にフォーカスされてしまい、対症療法の施策展開になってしまう危険性もあります。そうした点において、松澤さんから「実はこのケースでは研修を実行したことよりも、最初に●●のアクションをしたことが肝ですよね」とコメント頂けたことがとても価値のある事だと思うのです。
受講者にとっては、人事担当者として本質的に大事なことは何か?という事を考えるきっかけになったと思いますし、まさに実践で応用できるケースレビューをして頂けたと思います。
「人事が元気になる事で、組織が元気になる」
(松澤)
有り難うございます。さて、「人事塾withEvery」では、プログラム設計にも様々な工夫を凝らしました。事前のアンケートによる課題感の把握や、全ての回をオンラインで実施し、ビジネスチャットツールを使いながら各回のレビューとシェアすること、各ケースに対してチームでアウトプットを出してもらう事、夫々の仕掛けの効果は如何でしたでしょうか?
(菅野様)
特に効果的だったのは、チャットツールを用いたレビューを共有する仕組みです。従来の研修では、レポートを書いて上司に提出して終わり、という形式でした。ここも、松澤さんからご提案頂き、「学びをシェアし合う」という形式にしたのですが、やってよかったです。
お互いが何を感じたかをレビューし、インタラクティブにコメントしたり、また個々人のレビューに対して松澤さんから個別にフィードバックを頂く事で、事後フォローアップの広がりを感じましたし、受講者にとって意味のあるレビューになっていました。
(下村様)
このチャットは本当に盛り上がっていて、受講者にも“刺さった”仕組みだったと思います。松澤さんにも、私たちとは別の視点から多々コメントして頂き、全体の熱量が上がっていきましたね。「お互いの考えが見える」という仕組みは良かったと思います。
(菅野様)
受講者のキャラがでてましたよね。
(小寺様)
人事部全体としても、部員同士のコミュニケーション施策に力を入れており、「自分の考えを自分の言葉で表現すること」を大事にしています。この人事塾の形式はまさにその方針にあっていましたし、一方的に発信するだけでなく、松澤さんのように受け止めてくれる人がいたので、満足度は非常に高かったと思います。
(松澤)
GAFAなど、シリコンバレーの各企業ではオープンなコミュニケーションを重視していて、企業専用のTwitterアカウントを作り、かつ匿名ではなくバイネームで、誰しもが責任をもって発言できるような環境づくりなども進められています。
(下村様)
その仕組みはまさに私が理想としているものに近いです。コミュニケーション活性化は、「人事部が変わらないと会社が変わらない」という想いでやっています。夫々のメンバーが思っていることを発言する、言ったことには責任を持つ、これも経営人材としての基礎だと。まずはそのきっかけを作っているという段階です。
もともと「こうしたい、こうしたら良いのではないか?」という熱い想いを持った人は多いので、無意識に閉じてしまっている蓋をそっと外してあげればどんどん飛び出ますよね。人事塾のこの仕組みは良いきっかけになりました。
「人事部全体で、学び続けようというきっかけになっている」
(松澤)
では、このプログラムの効果をお伺いできればと思います。受講者の方々に、何か良い変化は起きていますでしょうか?
(菅野様)
私自身含め、受講者全体で「人事領域そのものへの興味」が高まったと思います。多くの受講者も述べてくれている感想です。その結果、業務の中でも「なぜこの事象に対してこの仕組みなのか」など、闊達に議論する機会が増えていると感じています。
若手勉強会なども始まっていて、例えば「世の中でJob型って言われているけど、その本質は?」など、チーム横断で勉強する機運が高まっています。ディスカッションする空気が醸成されたのはこのプログラムの大きな成果だと思います。
(下村様)
管理職の立場で見ると、人事部のメンバーの個性がより良く見えるようになりましたね。本人の興味関心や価値観含め、「こんな意見を持っていたのか」とプログラムを通じて深い部分を知ることが出来ました。チームを超えたタレントの把握ができ、コミュニケーションの量も増えました。プロジェクトのアサインの検討にも役立っています。
(小寺様)
私は何よりも「人事部全体として、視野が広がったこと」が大きな効果だと思います。私たち人事部は、本社の人事を担当しています。各営業グループにそれぞれ人事担当者もいますので、実際に出向などで事業投資先へ派遣されない限り「現場の声を拾う」という事がなかなか難しい環境です。そういった意味で、実際に事業投資先へ派遣されている人事担当者の経験談を自分事として捉え考える、また全体を松澤さんにフォローして頂きながら俯瞰的な目線で事象を捉える良い経験だったのではないかと思います。
先ほど菅野が述べたように、幾つかのテーマに対してディスカッショングループが形成されたり、担当業務も自社内の事例も超えて知見を増やそうという意識が高まっています。
人事部はどちらかというと内向きになりやすい仕事だと思います。それでは不十分で、過去の成功体験からのアイデアしか生まれない。だからこそ、私たちが何か新しいことを進めていくためには、外部の視点が重要だと思っています。松澤さんに人事塾全体を通じて伴走してもらえたことで、外部に視点を向ける機会になりました。
(菅野様)
経営人材という言葉を改めて考えるきっかけにもなっています。経営と人事を繋げるという事はどういうことか。人事をバックグラウンドに持ちながら経営に貢献するとはどういうことなのか?を考えるきっかけになりました。
– Everyに対する印象と今後期待すること –
(松澤)
有り難うございます。最後の質問ですが、Everyに対する印象と今後期待する事を教えてください。
(下村様)
このプログラムは期待を超えるパフォーマンスでした。本当に感謝しています。松澤さんには、今後も三菱商事に対して刺激となる新しい視点を提供してもらえれば嬉しいです。
私は現場から人事に来ましたが、人事部は日々の業務に忙殺されているという印象です。個別に話をすると非常に高い問題意識をそれぞれ持っているとがわかったので、出来るだけ本質的なことを構想しやすい環境を整備したいと思っています。
そういった意味で、ネットワークは重要だと思っていますので、もっと松澤さんのような外部のプロフェッショナルの方や他社様の人事の方々とも大いにディスカッションし、いろんな考え方を吸収し、実践に繋げて欲しいと思っています。
(松澤)
ありがとうございます。私自身もネットワークの重要性は留学時代に痛感しており、とても共感です。公開講座形式のHRBP養成講座には様々なゲストをお招きしてお話を聞いておりますが、私自身も新しい領域を勉強して、みなさまの刺激となれるように頑張り続けたいと思います。本日は本当に有り難うございました。
Client
三菱商事株式会社
人事部長代行 下村 大介 様
人事部 人材開発チーム 小寺 真由美 様
人事部 人材開発チーム 菅野 裕也 様
Consultant
株式会社Every
CEO 松澤 勝充
HRから、組織を、パフォーマンスを変える。
人事部向け 「原理原則」を学び議論する
HR Academy
Every HR Academyとは、世界トップ10以内にランクされるトップビジネススクール、ハース・スクール・オブビジネス、UCバークレーの上級教授をアドバイザーに迎えた人事部変革プログラムで、「戦略的人事」を実現する為の3カ月~6か月プログラムです。
アカデミックな理論と自社内の実例をもとに、実際のケースを使いながら実践型・参加型で「戦略的人事」を実現させていきます。
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